ザイルパートナー(?)

 川へ行けばふわふわ飛んでいる毛針を追っかけて食べてしまい、はずすのに大変な目にあったり、そうかと思うと、喜び勇んでバシャバシャと川の中を先に走っていくので全く釣りにならない。かといって近くの木につないで置くと、いかにも哀れな声でひゅーんひゅーんと鳴くのでどちらにしても釣りにならない。二度とこんなやつと来るもんかと思ったりもした。まあ釣りに行って犬と遊ぶなんて本の中だけの話か。

 思いもつかなっかったが、言われてみれば20年ぶりにザイルパートナーを得た感じである。二つ返事で、絶対にいやだとは言わないし、ばててしまったり、取り付きにきて急に臆することもない。重い荷物は持つことができないけれども、それはまあこちらも同じ。車に弱いことだけが難点といえば難点。こんなパートナーは本当に久しぶりだ。カミさんよりもずっと信頼が置ける。

 ニュージーランドでは単独行は無謀だから絶対にしないとこの間読んだ雑誌に書いてあったので一九をお供に行くことにした。一九にとって本格的な山行は初めてである。

 この年齢で一人で3千メートル級の山へ登るにはちょっと気が引ける。本当に良いパートナーができた。

北ノ俣岳でポーズをとる一九

たまには粗相をするので乗用車には乗せられないが、軽トラの荷台に縛り付けられてドライブすることはある。

ある時など山道のカーブで身を乗り出し、落ちてしまって首吊り状態になってしまった。足をばたばたさせてもがいているのをバックミラーで見つけて慌てて車から降りて戻してやったが、しっかり生きているのだから、こいつには絞首刑は効かない。

山や川に行って鎖を外してやると、一目散に走っていったかと思うと勢いつけて戻ってきて反対側に走り去ってしまう。それを何回も繰り返し倦むと今度は枯葉や土の中へ鼻を突っ込み、クンクンとやりだす。捕まえられるのはせいぜいミミズかオケラくらいしかないのにモグラみたいにトンネルを掘っている。次にはメス犬のにおいを嗅ぎ出し、あちこちにおしっこを掛けまわる。そうかと思うと水溜りや池があるとドブンと飛び込み、水鳥や魚を追い掛け回す。

命令するとめったにお手なんかしないのに、何かの拍子に片足を上げたまま固まってしまう。

飼い主としては辻まことの話に出てくるイヌキ(狸と犬の雑種)のムグのようになって山の中で一人?で暮らせるほど野性味あふれる犬になってほしいところであるが、山登りに行って、鎖を外してやっても、ちょっと主人の姿が見えなくなると走って戻ってくる。どう見ても一九はプルートである。あのウオルトディズニーの漫画に出てくるプルートそのものなのである。

まあ、考えてみると、日がな一日、毎日毎日たった一人(一匹)で、朝から晩まで留守番また留守番。暇と体力を持て余しているのはわかる気がする(そんなんなら本当は芝の草むしりでもしてほしいが、自分の周りだけはキレイに芝生を枯らしてしまっているものだから始末におえない)。仕方がないので自分の排泄物にたかるハエや、えさを横取りにくるすずめ達を噛もうとしてみたり、追いかけっこを仕掛けるのは理解できる。ごくごくたまに山や川へ連れて行く時ぐらい日ごろのストレスを発散させ、子ども心に戻らせてやり、自由にさせてやるか。