黒部五郎岳

北ノ俣からの黒部五郎

 今年は子ども達の受験が無いのでチャンスと思い、次男を誘って黒部五郎へ行くことにした。

 テントは担ぐと重いし、しばらくトレーニングもしていないのでテントは持っていかないと決めた。

 2泊3日の行程で、1泊は避難小屋泊まりになるので息子にはシュラフは必要である。大人は軽量化のためシュラフカバーだけにした。夜中に冷えてくればアルミのビバークシートもある。もう1泊は黒部五郎の小屋で久しぶりに山小屋なるものを味わって見る事にする。五郎の小屋からは新穂高へ下るもヨシ、来た道を戻るもよしでその時の気分で決めることにする。

息子にとっては快適な山小屋は初めてのはずである。

息子の山小屋の経験は、双六岳のテント場で台風くずれの強風のためテントのポールが折れて、ビショ濡れになってから夜中に小屋に駆け込んだ時だけなのである。

テントはなくても食料計画に贅沢を求めるものだから結構な重さになる。

それでも去年の薬師岳の時みたいな重さはないし、道のりも太郎平衛平へのダラダラ尾根のような単調な道ではないので気分的には楽である。ゆっくりと家を出て、昼頃に取り付きの駐車場を出発しても、予定時間の4時には避難小屋着。

 ところが、小屋には先客がいて、それも結構な人数なので、天気もいいし青カンと洒落込んだ。

 ルートから少し外れたところに池塘が乾いた跡なのかちょうどよい広さの平地がある。

今夜の寝ぐらはここに決めて、二人で夕飯をとる。親父は明日の荷物を軽くするため一番重かった缶ビールで祝杯をあげる。

 シュラフの中から星空が見え、それが瞬いているのは正に夏山の醍醐味なのであるが、その後が非常に不愉快であった。

 二千数百メートルの高山に蚊がいるのである。それも1匹や2匹ではない。シュラフカバーの顔の周りにプーーンと来ては去り、プーンと来ては刺しで、とても寝ていられないのである。息子ナゾはシュラフに体全部入ると暑いので、手を出すと刺され、顔を出すと刺されで散々である。

真夜中になれば蚊も少しは寝てくれるかと思いきや全くその気配はなく、蚊の来訪は朝方まで続いた。

ようやく朝が白み始めた

苦しいが、顔をシュラフの中に入れてしまってしばらく寝ては顔を出し、また顔を入れては寝るという事を繰り返した。朝方になって空が白み始める頃に蚊はいなくなった。

 ようやくにして惰眠をむさぼっていたら今度は昨夜遅くにやってきて、近くでテントを張っていた非常にうるさかった連中の一人が、こっちが寝ているすぐ傍へきて、何やらごそごそやっているなと思ったら、しゃがんだとたんに「プーッ」とやりだした。

「ばかものー!人が寝ている傍で何をしている!」と一喝したらこそこそ尻をまくって逃げていった。臭いが残らなくってよかった。こんなところでキジを打たれてたまるものか。

眠気もあるが、気分が悪い。早々に出発する事にして食事をとる。

天気が良いのがせめてもの救い。

北の俣岳までの道は前に一九と来た時とは変わって、木道ができており、人が歩いた跡を雨が掘り返して深い溝になっていた通路はは大分少なくなっていた。

日帰りよりは重い荷物のせいで北の俣にはコースタイムどおりの時間に到着。

稜線の道はやはり快適である。二人して話をしながら快適に進む。

予定より早くに黒部五郎の取り付きにつくが、黒部五郎はやはり大きい山である。そろそろ疲れてきたところへ持ってきて直登と言うかジグザグの登りが続く。

 頂上がなかなか見えない。

時折雷鳥が出てきてくれるのが慰みになる。2時過ぎに頂上に着いた。

いつも見ている飛騨側からの優美でなだらかなピラミッドと違い、黒部側はスパッと切り立っており氷河の爪あとを実感する。
 ここまで来てはじめて、かつて三俣蓮華で見た黒部五郎のカールと、今まで歩いてきたルートのつながりが実感でき、黒部五郎の全体像がわかった。
改めて大きな山である事を体感した。

これからの道を目でたどると、このあと稜線の切り立ったルートを通るか一端カールまで降りてカールを横切って小屋まで行くか、どちらもあと数時間かかりそうである。

山頂からカールを見下ろす

 ここで、ガスが出てきて若干曇ってきたので2人で考えた。これから行く道を明日はまた帰ってこなければならない。新穂高へ下るにしても明日は長い行程になる。
とりあえず頭書の目的は達成した。今日来た道はこれから下りが多いし、行程はわかっている。今夜は避難小屋は空いているだろうし、うまくすれば家まで帰れる。家でぐっすりと蚊のいない所で寝たい

黒部五郎の下りは結構足に来た。北の俣までの帰路は長かったがまあこんなもんだ。

北の俣からの神岡新道の避難小屋への下りも結構足に来た。大分膝が笑っている。

避難小屋に着いた頃は薄暗くなりだした。6時半を過ぎている。

さあ、どうしよう。

昨日来た道だし、登りに4時間もかかっていないから下りは2時間もかからないだろう。家でゆっくり寝たいという気持ちが強いし、道は険しい事はない。ランプもあるしヨシ!下まで降りて家で寝よう。

ギンリョウソウ

という事でそれから5時間近くかかって、へとへとになりながら下までおりた。
登りよりも時間がかかってしまった。完全に二人ともバテてしまった。夜中の11時過ぎになってようようにして駐車場に着いたのである。

真っ暗闇の中のぬかるみ道は切り株もあり本当に歩きにくかった。疲れ果てて20分ごとくらいに休んでいたのではないだろうか。

息子は駐車場に着くなり軽トラックの荷台に大の字になって寝てしまい、そのまま家に着くまでずっとそこで寝ていた。

今回の山行の成果。駐車場で拾った登山用のストック1本。
 
今回の反省。
  1泊2日でどうせシュラフカバーだけでゴロ寝をするのなら、最初の日に北の俣を超えて雪のあるところで寝ればよかったのだ。
  まさか稜線には蚊はいないだろうし、荷物を置いて空身で悠々と黒部五郎を往復出来たのだ。